デザインコンパスブログ「ポッカポカ日和」

19世紀の椅子

2015-7-7

数年前からお世話になっているN様より、大切な椅子生地の貼替えのご相談を頂きました。
その椅子は長年、本当に貴重なアンティークの数々と共に過ごされてきたN様にとって、とても大切なコレクションの一つでした。

お聞きすると、19世紀のイギリスで作られたもので、生地の中身は馬のたてがみだけで成形されているとのことでした。
19世紀のイギリス、私にはせいぜい映画で目にするような貴族の生活を想像するくらいしかできませんが、当時から存在するこの椅子のストーリーを想像するだけでも本当にわくわくします。

何度も椅子貼り専門の職人さんとやりとりをしながら、ついにお預かりすることになりました。
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とても美しいフォルムです。
現代の技術でもなかなか手仕事で作ることは難しいかと思います。
しっかりとした造りで、傷んでいるのは生地だけでした。

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少々ためらいながらも生地を開けてみると、中には黒い馬のたてがみがつまっていました。
これまで二度ほど生地の貼替をされたということで、表面の白い綿は二度目の貼替のときのもののようです。
当時、馬は身近な乗り物だったのでしょう。
たてがみは熱湯消毒をして使用されていたそうです。 そんな背景をお聞きするほど気持ちが高まります。

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そして、無事に貼替をさせて頂くことができました。もちろん中身はそのままに・・・。
生地はイギリス人デザイナー、ウィリアムモリスの代表的なザクロ柄の作品です。
とてもやさしい色使いですが、椅子自体の存在感を惹き立てる絶妙なバランスで、お部屋がしあわせな空気に包まれるようでした。

普段なかなかお目にかかることができない形あるもの、だけでなく当時のお話をお聞きすることができて本当に楽しいひとときでした。感謝の気持ちでいっぱいです。

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